ただいま全国的にインフルエンザが流行っていますが、今回は高熱の続くウイルス感染の一例をご紹介します。

患者さんは6歳の女の子。
先日、お母さんに連れられてぐったりとした様相で来院されました。
経過をお聞きすると、4日前から突然38度以上の高熱と咳で発症されたようです。
発症当日に受診した耳鼻科ではバナン(抗生剤)と咳止めを出されたそうですが全く効果がなく、翌日に他院小児科を受診されました。
そこでの院内迅速検査で溶連菌感染は否定され、さらにインフルエンザを2度も検査しましたが、これまた否定されました。
小児科の先生はバナンからセフゾンへ抗生剤を変更し、さらに咳止め効果のあるオノンを処方されました。
ところが全く効果が見られず、咳はますますひどくなり、全身状態は悪くなる一方でした。
そして発症から4日目になって、当院を受診されたのです。熱はまだ38度以上もありました。
症状経過から推測すると、経口抗生剤の効かない重症肺炎が疑われましたので、まず胸部レントゲンをとってみました。
画像では左下肺野にうすい浸潤影らしきものがありますが、肋骨と重なりはっきりしません。(この時点で重症肺炎は否定です。)
ならば、今度は採血で炎症反応(白血球数とCRP値)を見ることにしました。
採血の時には、彼女は怖くてワンワン泣くものの、体に力が入らないのかぐったりとして抵抗しようとはしません。
かなりの重症感です。
ところが結果は「白血球は正常範囲、CRPは軽度上昇」で、意外にも「ウイルス感染」と判明しました。
この時点で抗生剤治療は全くの無効であると判断しましたが、「さて次にどうするか?」と思案しました。
大人であれば、「抗炎症剤の点滴でストーンと熱が下がって楽になる」パターンですが、子供さんの場合はお母さんの意向もあり、大人と同じ点滴治療ができないことも多いのです。この子の場合もそうでした。

では、どうしたのか?

処方したのは「五虎湯(ごことう)」です。
体重が18kgぐらいのお子さんでしたので、お母さんに一袋の半分(1.25g)を3時間おきに3回連続して飲むように指示しました。
解熱剤は一切効かないことがこの4日間の経過でわかっていましたので、今回は処方せず、五虎湯にすべてを託して翌日再診としました。
もし熱が下がらなければ、翌日総合病院に紹介して入院してもらうつもりでした。

そして、翌日。
クリニックのドアを開けて入ってきたのは、一晩ですっかり元気を取り戻したその女の子でした。
昨日とは全く別人のようです。
お母さん曰く、「五虎湯を飲んで一回ほど吐きましたが、その後熱がストーンと下がりました。朝起きてみると4日間ほとんど食べられなかった子が、『おなかがすいた~』といってホットドックを一つ食べました!」
まだゴホゴホと咳が残っているようでしたので、一袋を朝夕にわけて飲むように3日分処方し、帰宅となりました。
うーむ、五虎湯くん、いい仕事してくれましたね。

五虎湯には、麻黄(まおう)も結構含まれていますが、何よりも石膏(せっこう)が多く含まれています。
石膏には熱を冷ます力がありますから、麻黄と相まって最高の力を発揮したようです。
そしてもう一つの構成成分である桑白皮(そうはくひ)は、鎮咳作用もありますが、味を飲みやすくする役目も果たしていますので、咳と高熱が続く子供さんにはもってこいの漢方薬です。

今回のような素晴らしいヒットがあるから、私にとって漢方はなくてはならない存在なんですよね。
レッツ、ドゥ、カンポー!

 



 

医療法人癒美会